島の宝観光連盟

【天草市】世界遺産の町で、脈々と伝わる共生の歴史

天草市で潜伏キリシタンの歴史と出会う

前回、天草の歴史に刻まれた「天草四郎」と、彼の生まれ故郷と伝わる上天草についてお話しました。
天草四郎率いる一揆軍の戦いは、「天草・島原一揆」として後世に伝わっています。
この一揆を受けて、江戸幕府はキリスト教を徹底的に排除する方針を取り、ますますキリスト教徒への迫害は厳しくなっていきました。
天草諸島の天草市では、迫害を逃れるために潜伏キリシタンとなった信徒たちが、いかにして生き抜いてきたのかを感じることができます。
ちなみに、天草市は、天草下島を中心に、平成18年に2市8町が合併して誕生しました。
鹿児島と上天草の間に位置し、鹿児島の長島から船で来ることもできます。

さて、平成30年に、世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産として、「天草の崎津集落」が登録されました。
崎津集落は、なぜ世界文化遺産に登録されたのでしょうか。
その歴史を紐解くと、宗教の枠を超えた、地域の共生の姿勢が見えてきます。

崎津集落に見られる共生の暮らし

崎津集落は、古来漁業を営む漁師さんが多く暮らしています。
航海安全の神様を祀る崎津諏訪神社は、崎津集落の鎮守として大切にされてきました。
実は、潜伏キリシタンたちは、神社で「あんめんりゆす(アーメンデウス)」と唱えながら祈っていたそうで、神道や民間信仰等と共生する姿勢を見せながら、自身の信仰を守っていたのです。

1805年に露見した「天草崩れ」(天草で一斉に潜伏キリシタンが見つかった事件)では、実に崎津集落の72%もの住民が潜伏キリシタンだったと判明します。
彼らは、普段は漁師として暮らし、神社を参拝していました。
そして密かに、信仰を貫いていたようです。
例えば、アワビやタイラギといった貝殻の内側に浮かび上がる模様を聖母マリアに見立て、崇敬していました。

キリスト教の禁教が解かれた後、1888年に潜伏キリシタンだった信徒たちは、崎津諏訪神社の隣の土地に旧崎津教会を建てました。
現在は、禁教期に絵踏みが行われた庄屋役宅後地に再建され、「復活の象徴」として集落のシンボルとなっています。

崎津資料館みなと屋」では、潜伏キリシタンの歴史や信心具などが展示されていますので、ぜひ立ち寄ってみてください!

のどかな漁村らしい風景にも注目!

崎津集落は、静かな漁村の風景を今に残しています。
特に、護岸に接する家屋から海に張り出した「カケ」と呼ばれる構造物が見られ、ここでは漁師さんが漁具の手入れを行ったり、干物を干したり、船の係留をしたりと使われてきました。
潜伏キリシタンもそうでない人たちも関係なく、「共同体」としての暮らしが見られる風景と言えます。

また、平地が少ない崎津集落では、密集した家並みをしており、とても漁村らしい風景と出会えます。
家と家の間通りが狭く、海に通ずる小径は「トオヤ」と呼ばれます。
他地域では「せどわ」とも呼ばれいますね。
「トオヤ」のあちらこちらで、昔から地域の人々は、井戸端会議をして交流していたのでしょう。
そうしたことからも、信仰の枠を超えた共生の姿を感じることができます。
これぞ、世界文化遺産登録の評価につながった大きな要因なのだそう。

旧網元岩下家よらんかな」では、かつての暮らしぶりが分かるパネルや生活用具を展示しているので、ぜひ立ち寄ってみてください。
1892年に建てられた旧漁師網元邸を市が解体し、復原した邸宅です。建物としても見応え十分!

﨑津集落の見学は、観光ガイドさんにお願いすると、潜伏キリシタンだけでなく、島の暮らしに関するお話も聞くことができます。
予約は、天草宝島案内人の会でできますので、ぜひ!

鹿児島から船旅でも行ける天草市

天草市へは、鹿児島県から船で渡ることができます。
長島の蔵之元港から天草下島の牛深まで、三和フェリーの船で30分。
カーフェリーなので、車を乗せて移動もできます。

牛深といえば、江戸時代後期に、海産物等を運ぶ海上交通の要衝として、多くの帆船が出入りしていました。
そこで、「船が無事に着きますように」という願いを込めて、船乗りが女性たちと一緒に唄って踊ったのが始まりです。
唄の出だしは、「ハエの風で今朝出港した船は、どこの港まで行き着いただろうか」。
「ハエ」は九州地方の南風を表し、北上する船には大切な追い風となります。
そこから転じて「ハイヤ」となったそうです。
全国40ヶ所のハイヤ系民謡のルーツであり「元祖ハイヤ節」と言われています。

三和フェリーでは、船の御船印も購入できるので、旅の思い出にしてくださいね。

後世に伝わる歴史や文化の背景を紐解くと、必ずと言っていいほど、往時の人たちの熱い想いに触れることになります。
光と影を知ることで、ようやく島を理解し、島へ想いを寄せる一歩になるのだなと感じます。
そして、「共生の姿勢」は、未来を生きる私たちに、大切な教えを伝えてくれているようです。
みなさんの島旅も、どうか充実したものとなりますように。